ピーテル・ブリューゲル

 

(ダ・ヴィンチの没した6年後生誕ミレー生誕の245年前に没す)

 


初めての国に入る
と 気になるのが貨幣価値(ドルとの為替レート)
そして 物価
結局 水を飲み 食事をし トイレに入り 寝る
その点と点の連続が 線に見える。
                         
私が入国して最初にする事は
銀行に行き トラベラーズチェックのドルを最小限両替
そして どの国にも国立の美術館がある
そこでコーヒーを飲む
おおよそ街値は2割高と見当をつける
そこから食事 酒 宿代を予測する。

                         
氷点下のウィーンに二週間居た
雪の中 歩いて 歩いた
                         
ベートーヴェンの散歩路 ハイリゲンシュタット
その丘に続く坂道
スリップして動かない車があった
友人が自分の車の鼻先をくっつけて押し上げる
今度は彼の車の前が潰れ
ボンネットが開かない。

夜 ほろ酔いで歩いていると
50m位向こうに女性
身体を90度に折り曲げ 下を見る
金髪の長い髪 紺の厚手のロングコート
傍に近づくと
真下には 一羽の死にそうな雀が
涙を浮かべた彼女と 目が合う。

そんな日常の点と点が凝縮された 絵に会った

《ウィーン美術史美術館》
入り口で靴に付いた雪を払い 温かい中に入る
空気は澄み過ぎる程 澄んでいた

『雪中の狩人』

三人は獲物が無かったのか 手ぶらで肩を落とし 疲れている
傍らには十二、三匹の犬達 彼らもまた 下を向く
丘の上から我が家を見下ろす横には
作業をする三人の農夫
目線の先に氷上で遊ぶ二、三十人の子供達
川では洗濯する女二人
空に真っ直ぐ羽を伸ばしている鳥一羽

その全てが主人公だった
王でもない 宗教家でもなく
また愛するその人でもない

ピーテル・ブリューゲルが描いたのは
人間 だった

空に飛んでいる鳥は
十字架だったのかも 知れない

点 点 点 偉大なる 点。