ヨーロッパのオバアチャン

 

その一人

 印象派 コロー 『ナントの橋』
 その現物を見たいだけの為 電車でやって来た
 ロンドン大雪 パリ寒い やっと公園のベンチでメシ食える
 ポカポカ 今夜は寝袋で野宿だな

 そこへ オバアチャン
 俺の前に立ち止まり

 何やらブツブツ
 そのうち 「プシュー」っと一声 ナイフで俺の腹を刺すポーズ
 「えっ」 周りを見渡すと
 なんと 昼間からワイン ラッパ飲みしてるアル中っぼい人 数人

 やべーな  慌てて夕方 宿取りました
 オバアチャンのお陰で ナントも無かった。

 

あの一人

 ミラノは ダ ヴィンチ『最後の晩餐』の在る
 サンタマリア デル グラッツェ という教会

 の手前の通り
 オバアチャン急に渡ろうとする
 5、6m向こうにトラック
 オバアチャン ダ ピンチ
 すかさず背中を掴んで止める
 オバアチャン 目の前をトラックが通ったとポーズ
 そして 俺に向かって十字を切った
 とりあえず助けた

 かな

 グラッツェ

 プレイゴ。

 

もう一人

 ネッシーに会えなかった無念から
 せめてビートルズに会いに行こうと
 スコットランドを横断しグラスゴー経由
 南下してリバプールへ 

 夕方着いた駅のTourist Informationの女は
 また同じ質問をするんだろうなーとばかりに
 カッタルそうにしていた
 「そのライブハウスは今はありません」
 それが彼女の答えだった

 夕暮れの街に出て まずは宿を探す
 港湾都市らしく坂が多い
 ゆるやかな一本道を登って行く
 二百メートル位過ぎた処に
 小さな庭 格子の出窓
 開け放たれたカーテンの向こう
 煌々と暖色の香り立ち込める

 呼鈴を押してみる
 少しすると白髪染めのヘヤーダイをベットリ塗ったオバアチャンがドアを開ける
 そして俺を見るなり
 「ヒッロシーマ ナンガサッキー」と歌を歌った。